宇宙系チャネラー ☆ルカ☆

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宇宙系チャネラー ☆ルカ☆

第一章 記憶の始まり7

 気を失って意識が戻るとき、というのは、少しずつ現実の世界に帰ってくる感じがある。
音のない世界から、少しずつ音が聞こえだし、ぼやけていた意識の焦点がはっきりとしてくる…そんな感じだ。
だが、「あれ」の場合は突然世界が切り替わる。
前と後をつなぐ中間がなく、突然…そう、いつも突然なのだ。
はっきりとした意識を保ったまま、気がつくとまったく違う世界にいる。そして次の瞬間にはまた戻っている。違う世界に行っている間、どんなにその世界に長く行っていたとしても、戻ってきたときにタイムラグはないのだ。
オーラソーマの45番を手にし、その色を体に取り入れるようなイメージで深呼吸を繰り返したときに怖れていた「あれ」は起きた。
 ここ最近、「あれ」が起きる前に予兆があった。それは「なんとなく耳の奥でキーンという金属音がする」感じで、それを感じたときに歩いたり、伸びをしたりすると「あれ」が起こることを防げたのだが、今日はカフェのざわめきや、目の前のボトルの色に集中したことで気がつかなかったのだ。
 今、目の前では、酒井がワークショップの日程の確認をしている。今回も一切のタイムラグなく戻ってきたのだ。
「…では、最終週の木曜日にご参加でいいですか?」
「え?あ、は、はい…」
突然聞かれ、思わずはい、と返事してしまった。
酒井にとっては、桂はずっと目の前にいるのだ。
どこかに行ってしまうのは桂の意識だけで、それもこの現実の間ではきっと1秒にも満たない時間。まばたきの間くらいの時間なのだ。
「では、次の時に高木さんが気になるとおっしゃったボトルの説明をいたしますね、インターネットでも調べられるので、良かったら見てみてください」
「はい、ありがとうございます」
桂は、ふらつく頭で酒井に頭を下げ、席に戻ると残っていたハーブティーを一気に飲んだ。
まだ、頭がぐらぐらしている。
今日の「あれ」は…なんだったのだろう?
いつもと違う。そこには「人間」が出てきた。いや、あれは人間ではない。では神様?そういう感じでもなかった。金色の髪、白い肌、美しい青い瞳。しかし人間くささはなく、背中には大きな羽根があったような気がする。暖かいまなざしで見つめられ、白い薄い衣裳が風にそよそよとそよいでいた。そして、桂の手を取ろうとした所でこちらの世界に戻ってきたのだ。
私は頭がおかしいのかもしれない。
いつもの、普段の生活がありながら突然別の、あまりにもリアルな別世界に飛び、そしてまた突然なんのタイムラグもなく戻ってくる。そして、戻ってきたときにいつも桂は混乱するのだ。
長い時間を向こうで過ごすこともある。まるで、生活しているかのように一週間、一ヶ月という単位で別世界で過ごすのに、戻ってくると1秒と過ぎていないのだ。特に仕事中に起こると最悪だった。直前にやっていた仕事の内容を完全に忘れているのだ。プロジェクトリーダーに企画書作成を依頼された時など最悪だった…企画書に盛り込む内容を直前まで詰めて、さぁ始めよう、というときに「あれ」が起こり…桂の中では一年ほどの時間が過ぎたというのに、戻ってきたら一秒も立っていず、パソコンを前にして何をすればいいのかすっかり忘れていたのだ。
かろうじてメモ書きを見て、何をしようとしていたのかは把握できたが、再度詳細を確認しにいったときはリーダーの顔をまともに見れなかった。
こんなことが続いたら、だめになる。
桂は立ち上がり、会計をしに行った。釣りを受け取り、買い物袋を下げてカフェのドアを押して外に出る。クーラーの効いた店内とは逆に、外は蒸し暑かった。
私、やっぱりおかしいんだろうか…
やっぱり来週、どこかで心療内科に行こう。
桂は、重い足取りで家に向かった。

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