11Jul
「シリウスでの生活は、至福そのものでした」
桂は夢見るような口調になり始めた。
その姿を見て、新庄が裕美に「チャネリング状態に入ったかも」とひそひそ声で言った。
「まさか…こんなに早くチャネリングに入る人、見たことありませんよ?」裕美もひそひそ声で返す。桂は構わずに続けた。
「いる存在がすべて、個別に別れている…私達のように、個体として存在しているのに、意識は共有しあっているのです。それはプライベートを共有、というのとは少し違う…大まかな部分もデリケートな部分も含めて「感情」を共有しあっているんです。そしてそれを常にコントロールする神官がいます」
桂は、いつの間にか目をつぶって少し体を揺らしながらしゃべっていた。
「それはまるでいるかのような感じです。いるかはとても高次元の、霊性の高い生き物だということは皆様ご存知だと思いますが…そして、神官たちは、みなの共有する感情がぶれすぎないようにコントロールします。このコントロールをどうやっているかはよくわかりません」
「私は、神殿のような場所にいます。そこはとても静かで、でも時々かすかにとても美しいメロディーが聞こえてきます。私は金色の髪、白い肌、白い服を着ています。服、というよりもゆったりとした布を纏っている感じです。そこには,私のツインソウルもいます」
桂は、あの至福の時間を思い出したかのように、微笑んだ。
「ツインソウルは私と同じような姿形をしています。唯一違うのは性です。でも、厳密に地球人のように男性と女性が別れてはいません。シリウスでは、意思によって性を変えることができるのです。そのときの私は女性っぽかった。そしてツインソウルは男性ぽかった…」
「私達はいつも一緒だった。いつも、シリウスのピンクの空を見上げ、幾つもの月を見上げ、美しメロディを口ずさみ、そして…癒しを必要としている人たちに癒しを与えていました」
桂は大きくため息をついた。頭の遥か後ろの方で「何を言っているの?それが正気な人の話す内容?」と突っ込みを入れている自分を感じたのだ。だが、話すのを止める気はなかった。シリウスで過ごしたあの至福の時間を、少しでもわかってほしかったのだ。
「不思議な話ですが、癒しを求めている人たちが必ず私達の住まいにやってくる。私は、そこでは巫女のような役割をしていたのかもしれません。私と彼は、ただ彼らに手を差し伸べるだけなのです。すると、彼らの内側や外側で変化が起こります。それは色でわかります」
そう、それはまるでピアノを調律するかのように変化が起こるのだ。そして相対する人たちの心が変化して行くのが、色としても見て取れるのだ。
「心に不調がある人は、色が濁ります。これは地球上の生物と一緒ですね。人間だけに限らず、植物も動物も昆虫も…地球上の有機物全てにオーラがあり、不調があるとオーラが濁るのと同じです」
「私達が手を差し伸べると、自然に調律がなされるのです。私とツインソウルがやっていたのは、不調を訴える方々の治癒でした」
「…他には、何かされていましたか?ツインソウル以外に親しい人とかいましたか?」
篠崎が質問する。桂は,一瞬考えてまた話し始めた」
「他には特に何もしていませんでした。時々、シリウス中の人たちにある歓喜の思いが伝わります。それはおもに、生命の誕生と死の瞬間に起こりました。あらたな生命の誕生と、新たなサイクルに入った魂を感じたときに、シリウス全体が歓喜の思いにあふれるのです。生まれてきた魂を歓迎し、去りゆく魂を祝うのです。」
シリウスは決して人口は多くありません。人口…というか、存在の個体数、ですね。今はあなたがたにわかりやすいように地球になぞらえて説明してますが、根本的にシリウスと地球では生命の形態がまったく異なります。3次元の知識でシリウスや、他の惑星の生命形態を理解しようとするのは無意味です」
「ツインソウル以外に親しい相手、というのは特にはいません。神官は定期的に私達のところにやってきます。そして様々なことを確認して行きます。天体の動き、シリウスの航路、地球人との接触状況など…」
「地球人との接触?」裕美が小さな声で、驚きを隠せずにつぶやいた。
「そうです、シリウスは長いこと地球と関わってきましたから」
「それはなぜ、ですか?」篠崎の声がやや緊張気味になった。
桂は、自分以外の誰かが桂の口を借りてしゃべっているのを感じていた。それはまさしく、シリウスにいる「自分」なのだ。
「人工ヒューマノイドがどこまで進化出来るか…それを私達は見守りつづけているのです」
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