宇宙系チャネラー ☆ルカ☆

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宇宙系チャネラー ☆ルカ☆

第一章 記憶の始まり8

 毎日が飛ぶように過ぎていく。お盆休みを前に仕事も忙しくなっていた。
心療内科に行かなければ…と思いつつなかなか行けないのは、急がしさもさることながらどうしても気が乗らないからだ。
もし「こころの病気」と診断されたらどうしよう…桂は不安だった。今の生活を失うことが怖く、症状をはっきりさせる、ということは今の平和な世界を手放すことになるのでは…そんな気がしてならず、そしてそれだけは避けたかった。
それだけならまだしも、もしも脳に異常があったら?脳溢血や脳梗塞に関連する何かが見つかったら?
父を脳梗塞で亡くしている桂にとって、それは自分の身に起こりうることとして充分考えられた。
いずれにしろ、家族に迷惑をかけるのは何よりいやだったし、もしも心の病気だったとしたら、夫の修二がどう思うかが非常に気になった。
何事も自分を責めがちな性格の修二は、桂の症状の原因を自分のうちに探そうとするだろう。
そういうときの修二の元気のなさ、いらつき、自分自身に対する攻撃を15年一緒にいて何度も見てきた。
翔太がまだ赤ちゃんだった頃、育児ノイローゼになりかけた桂のケアより、修二はその原因を探すのに懸命だった。原因探しよりも育児を手伝ってくれ!と叫びたかったが、仕事一筋で小さな子供と関わったことのない修二には、育児を手伝うことよりも桂のノイローゼの原因を探ることのほうが重要だったのだろう。
ひとつひとつの桂の体調に、自分の責任を求め続ける修二を、最初は優しい人だと思っていたが、ここ最近は正直うざったい、と感じている。もしも今の桂の症状を知ったら?今度はなんの責任を感じて自分を責めるだろうか…そう思うと、「病院に行く、なにがしかの結果が出る」ということが非常に重たく感じられるのだ。決定的な何かが起きないかぎり、重い腰をあげるのは億劫だった。
 携帯の呼び出し音が鳴ったのは、会社の昼休みだった。一緒に休みを取っていた同僚たちに断って、桂は電話に出た。
「もしもし、高木です」
「こんにちは、中川です、覚えていらっしゃいますか?」
電話をかけてきたのは、ちょうど一ヶ月前に退行催眠を受けた中川裕美だった。
「中川さん!どうしたんですか?何かありました?」
「お話したいことがありまして…今、お時間大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですけど…」
桂はなんとなくいやな感じがした。
確かに中川にはあのとき世話になったが、その後もクライアントの携帯番号を控えているのはどういうことなんだろうか、と思う。
次の予約の催促だろうか、そうしたら断ろうか…桂は躊躇しながら裕美の話を聞くことにした。
「セッションを受けてくださった方に、直接私から電話するのはあまりいいことではないと思うのですが、どうしても気になることがありまして」
「はぁ、なんでしょう?」
「もしよろしければ、急で申し訳ないのですが今日か明日あたりにサロンにおいでいただけないでしょうか?」
「はぁ?」
嫌な予感は的中だ。次の予約を無理矢理取らせるつもりなのだろうか。
「会わせたい方がいるんです」
「はぁ…なぜでしょうか?」
桂は時計を見た。後5分で昼休みが終わる。
「前回のセッションの後、あるヒーラーの方が同じような内容を話す方を知っているって…ごめんなさい、本当はセッションの内容は秘密にすべきなのですが、どうしてもどうしても気になってしまって…信頼の置ける方に聞いてみたんです」
「…そうですか…」
「高木さん、本当にごめんなさい。でも、もしかしたらあの時の内容の詳しい話を他の方から聞いたら、高木さんのお気持ちも少しすっきりされるのでは、と思いまして」
桂は迷った。
普通、退行催眠やヒーリングなどに関わらず、セッションの内容は公にされるべきではない。裕美は公にしたわけではないが、知り合いに話したという…そういうことはよくあることなのか、それともあるべきことではないのか…
最初は「あの内容を話された」ということがショックだったが、裕美があのときの話をもっと詳しく知りたいと思ってやった、ということは桂にも理解出来たし、桂自身もそれについて詳しく知りたかった。
同じような内容を話す人がいる、ということは、その人も桂と同じように「あれ」を体験しているのだろうか?
桂はそれが気になった。
気になってくると、その人に会ってみたくなる。
「その方は中川さんのサロンにいらっしゃるんですか?」
「はい、遠方の方なのですが、昨日から明日まで東京にいらっしゃるそうなんです。なのでもし来れそうだったらぜひ御紹介したいな、と思いまして」
桂は仕事のスケジュールを頭に描いた。
今日の午後、頑張って集中して、少し残業すれば明日の午後、半休を取れるかもしれない。
「わかりました、では明日の午後伺います」
桂の心は決まった。心療内科に行くよりも、同じようなことが起こっているかもしれない人に話を聞く方がいいような気がしたからだ。
「本当ですか!嬉しいです、では前回の時と同じく、2時くらいでいかがでしょう?」
「会社を午後休みますから、そのくらいの時間につけると思います」
「お忙しいのに恐縮です、ありがとうございます!」
「はい、では明日。もうお昼休みが終わりますので」
「あ、はい、わかりました。では明日お会い出来るのを楽しみにしてます!」
桂は電話を切った。携帯を握った手が少し汗ばんでいる。
明日…何か、わかることがあるだろうか?

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