19Jun
2時きっかりに桂は裕美のサロンに着いた。
今日も蒸し暑く、照り付けるような日差しの中、会社を午後休んできたのだ。
なかなか汗がひかず、裕美が用意してくれたアイスティーを一気に半分ほど飲んだ。
サロンに入ったとき、すでに裕美が桂に「会わせたい」と言っている人物はいた。そして裕美と裕美の先輩。4人が集まると冷房の効きもいまひとつで、裕美はクーラーのリモコンに手を伸ばした。
「寒くなったら言ってくださいね」
そういって裕美がクーラーの温度を調整すると、冷たい風が巡って桂は汗を拭く手をしばし休めた。
「高木さん、仕事を休んでいただいて本当にありがとうございます。」
「いいえ、私も気になっていたので…ちょうとタイミングも良かったです」
桂は裕美の言葉にこたえた。本当にタイミングが良かった。金曜日に提出する予定の書類の締め切りが、翌週の水曜日に延期になったのだ。通常ならありえないのだが、桂は密かにこれにもシンクロを感じていた。
「それで…ご紹介しますね、こちらが私の先輩でヒプノセラピストの新庄真由美さんです。新庄さん、こちらが高木桂さん」
桂は軽く会釈した。裕美が最初に紹介してくれたのが、相談に乗ってもらった先輩らしい。年の頃は30代前半くらいか…ショートヘアに大きなフープのピアスが似合っていて、裕美ほどではないがやはりパワーストーンのネックレスやブレスレットをつけている。
「そしてこちらが、クリスタルヒーラーの篠崎・クリス・公平さんです」
桂と同じようなことを言っていた、という裕美が紹介したい相手、とはこの男性なのか…桂は軽く会釈した。篠崎は立ち上がり、桂に握手を求めてきた。戸惑いながらも桂も慌てて立ち上がり、握手に応える。
がっしりとした、日本人にしては少し色黒な印象を与える大きな手は、思っていたよりもソフトに桂の手を握った。
「明日、日本を発つので…お忙しい所恐れ入ります」
篠崎は言った。在日歴が長いか、日本で生まれ育ったのだろうか。彼がしゃべった日本語は流暢だった。
「いえ、お話を聞いて私もお会いしたかったので…どちらに行かれるのですか?」
「アメリカに帰ります。今はアメリカのセドナを拠点にしているので」
篠崎の目がまっすぐに桂を見た。その瞬間、桂は篠崎の目の中に何かを見たような気がした。
「そうなんですか、日本語お上手ですね」
「ありがとうございます、父が日本人で、生まれた時から日本に住んでいて、大人になってからアメリカに引っ越したんです」
「あ、そうなんですが、失礼しました」
「いえ」
エキゾチックな風貌のこの青年は、年齢不詳だった。といっても、20代前半のような感じはしない。おそらく30代前半から後半くらいだろう。ふと「結婚しているのかしら?」と気になる。アメリカに引っ越した、ということは、アメリカ人女性と結婚して引っ越した、ということなのかもしれない。
「早速ですがあまりお時間もないので…」裕美が、桂と篠崎の会話を遮った。
「高木さん、今日は何時まで大丈夫ですか?」
「えーと、5時には出たいんですが」
「わかりました、ではちょっと急ぎましょう」
裕美はそういうと、スケッチブックを取り出してきた。それは、前回の桂とのセッション後に、内容確認のために使ったものだった。
「これを見ながら説明しますね」裕美はそういってスケッチブックを広げた。
中には、マインドマップのような形で、ぎっしりと文字、簡単なイラスト、記号が並んでいた。
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