2Aug
「今あるものに平和や幸せを感じることもとても大切です。今手にしていることを見出せずに、別のものを見出すことは不可能なのです。それはリンゴを構成するあらゆる要素から、ひとつの要素を見つけることに似ています。ある方にとってそれは、表面の皮であるかもしれず、瑞々しい果肉かもしれず、またある方にとっては、種なのかもしれません。いずれにしろ、あることを信じる、あって当たり前なのだ、という感覚を持ち続けることが必要でしょう。」
「ちょっといいですか?」横から裕美が口を挟んだ。
「今あるものに幸せを感じつつも、高木さんの場合は上辺の幸せ、ということなんですよね?上辺の幸せでもそれは幸せなんですか?」
「はい、魂が目覚めたときに、それは探していたものではなかった、と気づくでしょうが、目覚める前までは幸せだ、と思えています。魂が感じる幸せと比べたら格段の差ではありますが、「何がご自身にとって幸せか」ということを日常的に感じ続けることは大事です」
「…」
「そして、幸せは瞬発力であり、流動的です。昨日と同じものごとが同じように幸せを感じる要素になるとは限りません。なぜなら、毎日が、毎秒が、ひとつとして同じものがないからです。」
「そうすると…高木さんにとっては、今の日常を大切にしながら魂の扉を開いて行く、ということですね」
新庄が言葉をひとつひとつ吟味するように言った。
「そうです。今、彼女はまだ魂の道を知らない。それ故に、今進んでいる道を幸せだと思い、違う道に進むことを怖れています。しかし、それは知らないからです。誰だって、知らない道を進むのは怖いでしょう。でも地図とコンパスがあり、目的地がはっきりしていれば、そしてなぜその道を進むのかがわかれば、怖れることななくなるでしょう」
「…なるほど…」
篠崎が顎に手を当てて、納得したようにつぶやいた。
桂は一人、頭の奥のほうで叫んでいた。ちょっと待って!張本人の私を置いて、勝手に話を進めないで!!…と。
しかし、篠崎、裕美、新庄の3人は、まるで申し合わせたように桂のほうを向き、桂の口を借りているシリウスの桂に対してこう言った。
「楽しい、と思う気持ちがある限り、高木さんを全力でサポートします」…と。
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