3Jul
まばたきひとつ分の時間も経たないうちに、桂は目の前にいる裕美、新庄、篠崎の唖然とした表情を見た。何が起きたのかを把握するのにまた時間を要する。
「このひとたちはだれだっけ…なんでここにいるんだっけ…」心の中でつぶやきながら、意識を摺り合わせて行く。
「高木さん…大丈夫ですか?」裕美が心配げに桂の顔を覗き込む。
「ちょっとお茶入れてくるわ」新庄は立ち上がり、キッチンに行った。
そして篠崎は、無言で…桂の右手をきつく握りしめていた。
「あ、あの…ちょっと痛いんですが」
篠崎にいうと、「あ、ごめんなさい」といって、篠崎はすぐに手を離した。
記憶がゆっくりと蘇ってくる。いつもの、あの、天使のような「存在」が現れたのだ。ぁぁ、私はまたとんでもないことをしでかしただろうか?それとも何か発言したのだろうか…桂は、3人の反応を確認しようと順繰りに3人を見た。
「とりあえず、お茶でも飲みましょう、一息入れよう」新庄が4人分のアイスティーを入れてくれた。桂は手渡されたコップを持とうとして、自分の手が震えているのに気がついた。
「大丈夫?」今度は篠崎が心配そうに桂の顔を伺う。
「はい…なんとか」そう応えたものの、心中は大丈夫ではなかった。
「あれ…なんだったのかしら?」新庄がアイスティーを飲みながら誰に聞くともなく言った。
「天使っぽいですよね?エネルギー的にもかなり高次元な存在って感じでした。印象としては6次元くらい」裕美がそれに応える。
「…すごい光でしたね」篠崎も誰に言うともなくつぶやく。
「見えた…んですか?」桂は3人に聞いた。今まで自分1人の経験で、誰にも言えずに苦しかったのだが…同じように経験したのだろうか?
「見えましたよ、多分3人同じビジョンだったのではないかと思います」篠崎がゆっくりと、自分の言葉を吟味するように言う。
「見えた…3次元的な視覚で見た、というよりは、4.5次元の感覚でしたね。感覚で「見た」って感じ」裕美はそういうとアイスティーをごくりと飲み干した。相当に興奮しているらしい。前回の桂とのセッションの後よりも興奮しているようだった。
「高木さん、私達はただ、「見たように感じた」だけなんです。そして…あの存在は何かをあなたにしようとした、でしょ?」新庄が聞いてきた。
「はい…でも、たぶん新庄さんの声だったと思いますが、「やめなさいって伝えなさい!」って言われて…声は出なかったんですが、意識で「やめて!」って伝えたんです」
「それはね、篠崎さんが「やばい、やばい」って騒ぎ始めて」新庄が答えた。
「3次元の世界にしっかりつないでおかないとやばいことになりそうだって。だから篠崎さんはあなたの手を握ったのよ」新庄にそう伝えられ、桂は一瞬、自分の頬が赤くなったかもしれない、と思い、さらにそれに対して赤面しそうな思いを感じた。
「飛んじゃいそうなときは、親しい人からの呼びかけや、3次元の感触…肉体的な接触が、呼び戻しに効果的なんです」
篠崎はなんの感情もなさそうに言った。
「でも,僕には、高木さんがあっちの世界にいっちゃいそうな感じだけしかしなかった。あの存在は…一体何をしようとしたんですか?そして、前にもこういうことはありましたか?」
桂は戸惑った。感覚が鋭敏なこの3人は、一緒にあの光を感じ、存在を感じたのだ。だが、桂に何をしようとしたのかはわからなかったのだという。それを話して、果たして受け入れてもらえるだろうか?それ以前に、いつもあの存在がまず出てきて、様々な世界を見せられていることなどをどう説明する?それをこの人たちは受け入れられるのか?
桂は逡巡した。話すことにはやはり抵抗があった。自分がおかしい、と思われるのも嫌だし、何がおきていたかを伝えることで、自分が大事にしてきた世界が壊れるのが恐かった。
「高木さん、大丈夫です」
篠崎が優しく、しっかりとした声で言った。
「あの存在は何者ですか?何をしようとしたんですか?」
桂は重い口を開いた。
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